志ネットワーク代表 上甲晃さんのデイリーメッセージ・平成16年9月4日号 「松下幸之助物語」は、側で仕えたものから見た実感が伝わるものです。
「生き方名人としての松下幸之助」
松下幸之助は、戦後、経営の神様、あるいは・経営の神様と世間から呼ばれ、賞賛されてきた。それほど経営、商いについて、天才的な能力を発揮し、大きな成果を上げていたのである。
そのために、経営の神様・商いの神様としての側面から松下幸之助を語ったものは、数限りなくある。書籍にしても枚挙にいとまがないほど多い。
私は、松下幸之助を研究するほどに、「この人は、人間が本来持っている可能性を最大限に発揮する考え方と、それに裏付けられた生き方を実践してきた、生き方名人・ではないか」、と考えるようになった。
「ものは、考え方次第である」
私はある時、「ずいぶん長生きされましたが、長寿の秘密は何ですか?」 と松下幸之助に向かって質問したことがある。返ってきた答えは、生き方名人・としての面目躍如とした名回答であった。「それは、体が弱かったからや」。体の丈夫な人は長生きでき、体の弱い人は短命であると、理屈で考えてしまう私と松下幸之助の考え方は、違うのだ。
「どうして体が弱かったために長生きできたのですか」と、私は首をひねりながら聞いた。「体が弱かったから、どうしても無理ができなかった。結果的に、それが一番良かった。無理をしなかったおかげで、長生きできた」 というわけである。
「ものは考えよう」 「すべて考え方一つや」。私はその言葉の奥に、生き方名人・松下幸之助のものの考え方を窺(うかが)い知るように思う。物事をどのように捉え、どのように受け止め、どのように考えたら、成功するか、その秘訣を読み取るような気がするのである。
「すべてを生かす考え方」
さらに突き詰めていくならば、自分に与えられた条件、自分に与えられた境遇、そのすべてを運命と受け入れ、さらには 「おかげ」 と積極的に受け止めて、生かしていく考え方ができるところに、生き方名人・松下幸之助の特徴があるように思われてならない。
例えば、不景気がくる。大半の経営者は、「困ったことだ」と頭を抱え、「早くなんとかならないか」と嘆く。松下幸之助は、「不景気も考えようによったら、なかなかよろしいな」と積極的に受け入れる。「不景気のお陰で、社員の気持ちを引き締められる。日ごろできないような大胆な改革ができる」と考えたら、「好景気よりも不景気のほうがかえってよろしいな」と言う。まさに、不景気もまた生かすことができるところに、名人の秘訣がある。
「学歴がなかったおかげ」
「あなたが経営者として成功できた理由は何ですか?」と質問された時。「学歴がなかったこと。体が弱かったこと。家が貧乏だったこと」と答えた聞いたことがある。
凡人が考えたら、その三つ、いずれもマイナス要因、短所・欠点、できない理由になるべきことである。ところが、生き方名人・にかかると、成功の条件に変じていく。まさに、考え方一つで、学歴がないことも、体の弱いことも、家が貧しいことも成功の条件になる。
「学歴のなかったおかげで、聞く耳持てた」
学歴コンプレックスに悩む人は多い。世間の常識によれば、学歴のないことを、人生のハンディーキャップのようにとらえている人が大半である。
しかし、松下幸之助は、学歴のないことが、経営者として成功した最大の要因の一つであると言う。松下幸之助は学歴のないことを見事に人生において生かしたのである。私が、松下幸之助を、生き方名人・であると思う所以(ゆえん)である。
どうして学歴のないことが成功の原因なのか。理屈で考えると大いに疑問である。その疑問に対して、松下幸之助は、「学歴がなかったから何も知らなかった。おかげで、何事でも、誰にでも聞く耳を持てた。そして何を聞いても感心した。それが経営を間違わずに行うことができた最大の要因である」と説く。私は、理屈で物事を考えることの限界を知ると共に、生きる名人・になる秘訣を伝授された気持ちになる。
この続きは 次回号に掲載します
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