「自分に与えられた運命を積極的に受け入れる」
人は、逆境に立つと、必ず次のように言う。「どうして私ばかりこんな目に遭わなければならないのか」と。それは、自分に与えられた運命や境遇を受け入れられないことの表れである。松下幸之助は、「嘆いて状況が好転するものであれば、嘆けばいい」と言う。
しかし、「嘆いても嘆いても、どうにもならないことは、嘆いてはならない」と教える。大不況がきたとき、「どうしてこんなことになったのか。いつになったら好転するのか」と嘆いてみても、事態は何も変わらない。それどころか、嘆いている間に、ますます事態は悪化する。
「困難よろしいな」、「不景気よろしいな」、「不景気のおかげで」、「不景気だからこそ」と考えることの大事さを、松下幸之助は教えたのである。生きる名人・の秘伝ではないだろうか。
「それもまた良しホトトギス」
前向きの発想、生きる名人になるための発想、そして秘伝を一言で表すならば、「それもまた良し、ホトトギス」。かつて松下政経塾で、塾生が質問したことがある。「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス。鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス。鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス。この三つの江戸時代の狂歌、塾長はどれですか」と。そのときの答えが、「鳴かぬなら、それもまた良しホトトギスやな」。私は、まさに名人の発想法を教えられた気がした。
鳴かないホトトギスは、自分にとっての逆境と思えばいい。普通は、殺してしまいたいし、何とかしたいものだ。しかし、松下幸之助は、「鳴かないホトトギス、いいじゃないか受け入れてやれ」と言う。そのように考えると、どうやら、生き方名人は、自らにふりかかってくる境遇を、「それもまた良し」と受け入れる心を持った人ではないかと思う。
「人生に無駄な経験は何もない」
すべての運命を積極的に受け入れることが、生きる名人・の秘伝であるとすれば、人生に無駄な経験など何もないことになる。「父さん、それもまた良しホトトギス。倒産したおかげで、初めて自分の甘さを知ることができた」となる。「落選、それもまた良しホトトギス。落選したおかげで、初めて日陰に立つ苦しみを知った」。すべての経験を生かす力、それが、生きる名人・の力なのである。
「商売に浮き沈みはない」。そんな言葉を松下幸之助から教えられたことがある。「商売というものは、本来、永遠に発展するものである。それを人は浮き沈みがあると言う。浮き沈みがあると考えたら、浮き沈みする。浮き沈みするのは商売ではない。人間の心である。
商売は、永遠に発展する。否、それだけではない。「商売が永遠に発展するのは、万物を生かそうと働いている宇宙根源の力によるものである。その力に素直に従えば、商売は永遠に発展する。発展するのは、宇宙の根源である」。
私は、その考え方に大きな力を与えられて、日々生きている。
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