「がんばらない介護のすすめ」
ショートスティーセンターを訪れる大勢の方とお話をします。その時、私は介護者に、「どうぞがんばらない介護をしてください」と言っています。10年前に、「老親介護は今よりずっと楽になる」という本を出しました。この中で、「がんばらない介護がよい介護ですよ」と訴えました。
本を出した当時は、「がんばる介護」が主流でした。「女、子どもががんばらないで、どうするのだ」と。「お嫁さんも娘さんも、自分の体を壊してでも親の世話をして当たり前」「人生は順繰りなのだから、嫁が姑のお世話をして当たり前なのよ」と。その中で、私は、「がんばってはいけません。がんばらない介護がよい介護ですよ」と提唱してきました。
全国のお年寄りから「何ということを言うのだ」とバッシングされると思っていました。しかし、本が書店に並ぶと全国の介護する皆さんから「よくぞ書いてくれた。あそこにあるエピソードはまさに私のことではないか」と大変な激励と共感をいただきました。瞬く間にがんばらない介護というもが世の中に定着し、「がんばらない」は流行語になり、コマーシャルにも登場しました。
さて、「なぜがんばってはいけないの」ということですが、どなたも大変ご長寿になられたからです。その分、介護も長引きます。昭和の半ばまでは人生50年、終戦後もしばらく人生50年でした。現在は人生80年、90年、百年もすぐそこまでという感じで寿命は延びています。
シヨートスティーセンターご利用の中に介護が30年を超えたお嬢さんがいます。そのお母さんは104歳。80歳近いお嬢さんは、自分が母より先に逝ってしまうのではないかとおっしゃっています。そして、「ここでお世話になっている母親は、親ではありません。鬼です」とこぼします。
なぜ、鬼って言うのでしょうか。お嬢さんはお母さんが倒れたときに、お嫁入りのお話もあったそうですが、親のことが大変で縁談も断り、お世話をずっと続けてきました。30年が過ぎ、その間、弟を独立させ、妹を嫁にやり、母親がわり父親がわりとなってきました。
お母さんのお世話をお嬢さんが一生懸命しているのに、お見舞いに来る弟妹に「美味しいものを食べさせてくれない。ちっとも世話をしてくれない」
話をするのです。たまにしかこない弟妹は真に受けて「お姉ちゃん、たまに美味しいものを食べさせてあげてよ。やさしくしてあげてよ」と余計なことを言っていく。「そういうことを弟妹に言わせる親は親ではない。鬼です」と私は涙ながらに訴えています。
お嬢さんはそれ以後、疲れとストレスで今では自分が親より先にあの世に逝ってしまうのではないかと戦々恐々とした毎日を過ごしているのです。
いま、高齢者の虐待も増えています。親の介護を毎日していると、つい、「この親さえいなければ、私の人生楽なのに・・・・・・」と思って虐待しかねません。介護というのは密室の中で行われます。ご主人は会社に、子どもたちも学校などでいなくなると言葉の暴力や叩く、小突く、足蹴りにするといった虐待が始まってしまいます。
ある機関の高齢者虐待調査によると、5人に4人、4人に3人は虐待をしたか、虐待をしようと思って首に手をかけたが、ハッと気がついてやめたとの統計があります。「私は虐待は決してしません」と言っても、そうしないという保証は全くありません。人間とは弱いものです。がんばってはいけませんというのは、このことなのです。
また、あまりがんばり過ぎると、自分の方が病気になって先にあの世に逝ってしまう例もあるのです。48歳になる方の親が認知症になり、父親も腎臓が悪く、透析を始めたので、「仕事を辞めて親の世話をしたい」との相談を受けました。
私は、「仕事をやめてはいけません。朝から晩までご両親のお世話ばかりしてはストレスがたまりますよ。仕事をして社会とのつながりを持ちながら、お母さん、お父さんの世話をしなさい。介護は公的機関にお願いをして、あなたは心の支えになればよいのです」と応じました。
けれども、お嬢さんは仕事を辞めることを選択しました。数ヶ月が過ぎたある朝、起きてこない娘を父親が見に行ったとき、娘はすでに冷たくなっていました。朝、昼、夜、24時間体性で両親のお世話をしなくてはならないということが、命を縮めてしまったのでしょう。がんばり過ぎると、自分の命を縮めてしまう危険もあるのです。
また、このままがんばって、虐待もせず、親より先に病気になることもなく、介護している方はどうなるかというと、ケアホリックになります。長い介護が終わって、やれやれと思った途端に目標がなくなってしまい、自分が痴呆症やうつ病になるという燃え尽き症候群となることが現実にあります。
ケアホリックになると、これからの人生が台無しになります。介護一筋にがんばっている人が身近にいたら、「自分のことも大切にしてね」とアドバイスをしていただきたいと思います。
次は「サービスをねいっぱい利用」 つづく
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