数年前、交流のある横浜市の高齢社会をよくする「虹の仲間」が、観光名所を見学するばかりではなく、横浜のもう一つの顔を知ってほしいと案内してくれたのが、「寿町」のドヤ街。当時、テレビなどでは見ることはあったが、目の当たりにすると言葉が続かなかった。そして、多くのボランティアの人々の温かい支援を受けていることを知った。(ドヤ = 宿)
最近の新聞に、「ドヤから宿」へと変身する試みがなされていると載った。つまり、仕事が減ってよそへ移ったり、高齢化して仕事をもらえなかったりして、簡易宿泊所の空き室が多くなっている現状打開のため、旅行客に空き室を開放し、同時に生活環境も改善するというもの。
今回も虹の仲間に案内してもらった。寿町のある横浜市中区は、山下町などのある一等地。寿町は、中華街北門から徒歩3分。JR石川駅や関内・伊勢佐木町からも数分の徒歩圏内の街中です。石油危機・バブルの崩壊の影響で日雇い仕事も激減。しかし、地方へ戻ることもでかず年を重ね、労働に就くことや生活することにも大変な高齢になっているという。寿町の推定人口は6400人。うち60歳以上の高齢者は3200人と、超高齢化地域でもある。
保育園のブロック塀に???と思うマークが描かれていた。マークとは、神社の鳥居だけで、言葉は書かれていない。聞けば、子供たちを保育する施設ですから「立小便」をしないで下さい、という意味だという。考えたもんですね。厳しい言葉でとがめるのではなく、さりげなく協力してもらうという地域の温かさを感じます。
大きな地蔵さんも造られている。さまざな人生の思いを、この地蔵さんに報告しながら生活しているのかも知れない。ここでは、NPOの法人組織や団体・サークル・個人などの支援者が、パトロールや炊き出しなどをしている。その支援する姿勢は、想像を超える数の団体・個人の協力から成り立っています。
現実に暮した人の紹介記事がある。Aさんは、大学に入って力をつけ、医師や新聞記者になって社会のために活動するという「上昇志向」と、「受験勉強なんて何のためにやるのか」という問いの狭間で悩み、授業をさぼった。ちょっと傲慢かもしれないが、ネクタイをつけたサラリーマンを見ると、何となく世間にこびているようで、自分の人格を売り渡している。こんなのは人生じゃないと思った。
B子さんは、結婚して娘が3人いた。夫は酒とギャンブルに明け暮れ、家庭を振り返らなかった。娘が成人してから家を出て、各地を転々としたが、娘たちは私を引き取ってくれなかった。娘たちはどこに居るかは知っているが、二度と連絡は取りたくない。
ホームレスの方は「路上生活者」。寿町のような所で野宿する人を「アオカン」というのだそうです。一泊の宿泊費は1500円。持ち合わせなしの方は「野宿」となる。圧倒的に男性が多いという。
横浜市では、1500円までの簡易宿泊所に泊まれる「ドヤ券」を発行している。しかし、一部を除き宿泊所は指定されていないため、自分で泊めてくれる宿を探さなければならないという。これがまた難儀なことだという。(簡易宿泊所は、2〜3畳の広さ)。
「パン券」も発行されているが、1日の食費分は660円で、酒とタバコは買えない仕組みになっているという。働き盛りの人は、「失業」を理由に生活保護は受けられない。この対策のために、ドヤ券やバン券が配布されている。従って、各種ボランティア団体の行う「炊き出し」は、重要な生活の支えとなっている。
私を案内してくれた虹の仲間の会員にも、この炊き出しボランティアに協力している人がいる。そして、少しでも環境が改善されることを願っている。数年前と変化したことがある。ブラブラしている人が明らかに減っている。昼間中、路上で寝ていた人が見受けられたが、今回はゼロ。ごみの散乱は、比較にならないほど改善されている。私自身、何も支援も協力もできないが、よい方向に改善されていることはうれしい。
路上生活者となった理由は、家庭の事情、事業に失敗、会社が倒産して失職、などさまざま。中には、「罪を犯し刑期を満了し、社会復帰したものの、うまくいかず」というケースもあるという。
NPOの団体が、自立をさせるために頑張っている。しかし、座っている人を支えて立ち上がらせたとしても、手を離せばまた座ってしまうという。いくら周りが保護しても、その人の気持ちに変化が起こらなければ、何も変らないという。物質的な支援だけでなく、心のケアに重点を置き、自らが生きがいを見出すような環境・土壌づくりが課題だという。
寿町では毎年「夏祭り」が行われる。この一環として開催する「フリーコンサート」の舞台監督を、北海道出身の女性が務め、ドヤ街の人たちに楽しんでもらうという記事が新聞に載った。北海道出身の青年が協力するということに、うれしさを感じる。ドヤ街を変えようという支援は、確実に広がりを見せている。変化は急激にではなく、暮している人たちが受け入れられるスピードでの変貌を期待したい。
ドヤ街コンサート舞台監督を務める 松沢あゆみ さん
(北海道新聞掲載記事)
東京の山谷、大阪の釜ケ崎と並ぶドヤ(簡易宿泊所)街、横浜・寿町で12日に行われる「寿町フリーコンサート」の舞台監督を務める。「街に住む人たちが交じり合って踊る。その場のパワーや開放感に衝撃を受け、自分も作る側になりたくて」。2000年からスタッフに加わった。
コンサートは、お盆でも故郷に帰れない労働者に帰郷した気分を味わってもらう「寿夏祭り」の一環。28回目の今年は渚ようこさん、遠藤ミチロウさんら6組が出演する。自身ははステージ裏で舞台進行を仕切る。
深川市出身。小樽女子短大(現小樽田偉大)卒業後、上京し、ライターなどを経て通販サイトの編集者に。1997年、コンサートに出演するバンド見たさに初めて寿町へ。昼間から酔っ払って道路で寝ている人に驚いた。同時に、この街の分け隔てのなさに魅せられた。
スタッフとして寿町に通ううち、いろんなことが見えてきた。「不況で仕事がなく、年を取り働くことが難しい人もいる。生活保護を受ける人、障害を抱える人も多い」と言い、「生まれ育った北海道の現状と社会構造の深い部分でつながっている」と感じる。実家は離農した元酪農家だ。
「人間は一人一人違うんだと実感できたことが大きかった」とも。「バンド目当てでも飲んで騒いで帰るだけでもいい。そういう意識を広く共有できるきっかけになれたらいいな」。東京在住、33歳。
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