調子のいい時の会社は、アッというまに業績を伸ばし成長します。しかし、逆にアッというまにドン底にUターン、というケースも珍しくない時代ですね。志ネットワーク代表 上甲晃さん(松下政経塾・元塾長)がデイリーメッセージで発信した 「世間の風」 は、私たち身の回りの教訓として考えさせられるものがあります。
「世間の風」
「調子のいい時には、本当に大勢の人が寄り集まってきます。しかし、いったん調子が悪くなると、みごとに人は去っていきます。あれだけ大勢の人たちはどこに消えたのだろうかと思います」。そんな話をしてくれたのは、岐阜県恵那郡で石の博物館をはじめ、手広く石材の事業を展開している岩本哲臣さんである。株式会社博石館の社長だ。
私は、その話の意味するところが、手に取るようにわかる気がした。これが 「世間の風」 というものだろう。「世間の風」は、自分の調子が良い時、隆々と繁栄している時、しかるべき地位や立場にある時、人は無理やり呼び寄せなくても、自然のうちに群がってくる。
ところが、いったん逆境に陥ったり、経営状態が悪くなってきたり、しかるべき地位や立場を去った時、人は蜘蛛(くも)の子を散らすように立ち去ってしまう。「それはもう、みごとなものです」と、岩本さんは笑う。本当にその通りだろうなと、私もまた、同意した。
政治家などにも、その悲壮を感じている人は多いようだ。当選すると、どこからこれだけの人が集まってきたのだろうかと首を傾けるほど、選挙事務所は人で沸き返る。大体、候補者のそばで万歳の手を挙げている人は、概して、選挙期間中見かけなかった人が多い。落選すると、みじめだ。人がすうっと引いていくのだ。気がつくと、事務所の中に残っているのはごくごく身内の人たちだけになっている。
私は、それを知るからこそ、人が群がっているような状況にある人には、できるだけ私からは近づかないほうが良いと思っている。人が絶頂期にある時は、遠くから見守り、自分のことで相手を引き回すようなことはしない。その代わり、人が逆境になった時には、何かお役に立てるようなことはないかと考えるようにしている。そして、わずかばかりであっても、手助けをお願いするようにしている。
人が光の中にある時には、あまり近づかない。その代わり、人が影に入った時には、できるだけ近づく。これが、私の生き方である。
地位や立場を得ると、急速に人の縁が広がる。それを、自分自身の人間的な魅力と取り違えると、大きな錯覚をしてしまう。
大勢の人が近づいて来るのは、その人の人間的魅力のおかげなのだ。その証拠に、地位・役職を去ると、とたんに遠ざかる人が、余りにも多すぎる。「青年塾」では、博石館の訪問を、入塾式関連の研修として7年間実施してきた。その間に、岩本さんにも浮き沈みがあったはずだ。「いつも欠かさず来てもらえるのがうれしい」と岩本さんは、言う。
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